深夜営業(深夜酒類提供飲食店)の届出手続きを進める中で、建物使用承諾書が入手できないという事態に陥るケースがあります。

多くの場合、その背景には物件の使用関係をめぐる問題が潜んでいます。特に「知人の店舗を又貸ししてもらった」「転貸の許可を所有者に得ていない」というケースは、手続きが完全に行き詰まる典型的な原因です。

この記事では、建物使用承諾書が入手できない原因と正しい対処法、そしてやってはいけない対策について解説します。

建物使用承諾書とは?なぜ必要なのか

深夜酒類提供飲食店の届出を警察署へ行う際には、届出書類の一つとして「建物使用承諾書」を提出する必要があります。

これは、「その建物を営業のために使用することについて、建物の所有者が承諾している」ことを証明する書類です。

賃貸物件で営業する場合、届出者(営業者)は建物の所有者ではありません。そのため、警察は「この人物が本当にその場所で営業する権限を持っているか」を確認するために、所有者からの使用承諾書の提出を求めます。

使用承諾書は建物の所有者から取得する必要があります。なお、転貸借(又貸し)の形で物件を使用する場合は、所有者に加えて転貸人(直接の貸主)からも使用承諾書が必要であり、両名からそれぞれ1通ずつ取得しなければなりません。

使用承諾書が入手できないケースとはどんな場合か

物件の所有者が深夜営業を許可してくれない場合

深夜営業の届出には、使用承諾書が必要です。しかし所有者の中には、深夜営業を許可しないという判断をする方もいます。

「騒音トラブルが心配」「他の入居者に迷惑がかかる」「賃貸物件の用途を限定したい」など、理由はさまざまです。

物件を契約する際、不動産業者が所有者に事前確認を取ってくれる場合もありますが、深夜営業が可能かどうかは必ず自分でも確認しておくべき事項です。物件を契約したあとに「使用承諾書を出せない」と言われてしまうと、工事費用だけが無駄になりかねません。

借主が無断で又貸し(無断転貸)しようとしている場合

実務上でよく見られるケースが、無断転貸の問題です。

具体的には次のような状況です。

知人が借りている店舗を「又貸し」してもらい、居抜き改装工事まで行ったが、その知人は所有者から転貸の許可を得ておらず、無断転貸の状態だった。深夜酒類提供飲食店の届出に必要な「建物使用承諾書」を取得するためには所有者から承諾をもらう必要があるが、そもそも転貸自体が許可されていないため、所有者に連絡することもできず、手続きが行き詰まってしまった。

このように、転貸人が転貸の許可を取得していないまま又貸しをするケースは、手続き途中になって初めて「使用承諾書が取れない」と発覚することが多く、既に店舗の契約や工事を決定したあとで届出ができないという事態に陥ります。

無断転貸のリスク

無断転貸(転貸人の承諾なく又貸しすること)は、手続き上の問題にとどまらず、経営上の深刻なリスクを多数はらんでいます。

賃貸借契約の解除リスク

民法第612条は、借主が賃貸人の承諾なく転貸することを禁止しています。無断転貸が発覚した場合、所有者は賃貸借契約を解除できるとされており、あなたが営業を始めたとしても、ある日突然立ち退きを求められる可能性があります。

「知人との口約束があるから大丈夫」という認識は非常に危険です。仮に知人との間に書面があったとしても、それは所有者との間の問題を解決するものではありません。

火災保険・損害保険が適用されないリスク

火災保険や店舗総合保険は、被保険者が適法に物件を使用していることを前提としています。無断転貸の状態で火災や水濡れ等の事故が発生した場合、保険金が支払われない可能性があります。

飲食店では火気を扱うため、万が一の際に保険が下りないリスクは致命的です。

工事費と原状回復費で二重の負担リスク

所有者が契約を解除した場合、あなたが施した改装・内装は元の状態に戻す必要があります(原状回復義務)。つまり、せっかくかけた工事代金が無駄になるだけでなく、さらにもう一度工事をして戻すための費用もかかることになります。

深夜営業の届出ができず、違法営業となるリスク

本記事の本題でもありますが、使用承諾書が取得できなければ警察への届出ができず、無届のまま深夜営業を続ければ風営法違反となります。警察から指導・摘発を受けた場合、営業停止・罰則の対象となります。

正しい解決策:所有者から正規に転貸の許可と使用承諾を得る

結論として、所有者に直接話をつけ、転貸の許可を得たうえで使用承諾書を取得するという正規の方法が、経営上のリスクを最小化するための唯一の選択肢です。

確かに、所有者に連絡することで「無断転貸をしようとしていた」という事実が発覚するリスクはあります。しかし、発覚を恐れて脱法的な方法で手続きを進めることは、長期的に見ればはるかに大きなリスクを抱え込むことになります。

所有者が転貸を承諾するかどうかは交渉次第です。深夜営業の届出に必要な要件や、営業形態について丁寧に説明することで、承諾を得られるケースもあります。また、仮に現在の物件で承諾が得られない場合は、別の物件を探すという判断も必要になります。

やってはいけない対策

使用承諾書が取れないからといって、以下のような「回避策」を取ることは厳禁です。

主食メインのお店として届出不要で営業する

深夜にアルコールを提供するお店であっても「営業の常態として、通常主食と認められる食事を提供して営むお店」は深夜酒類提供飲食店に該当せず、届出が不要になります。

「通常主食と認められる食事」とは、米飯類・パン類(菓子パン除く)・めん類・ピザパイ・お好み焼き等のことをいいます。

これを理由に「うちの店は主食メインだから」と言い張って届出せずに営業しようとする方もいます。

しかしながら、単にメニューの中に「主食」を置くだけでは「主食中心の営業」とは認められません。

深夜0時以降にお酒を提供する場合、届出の要否は「実際の営業内容」で判断されます。バーとして運営しながら、形だけ「ラーメンもあります」という構成にするだけでは、違法営業のリスクが残ります。

本当に主食中心の業態へ転換するならば問題ありませんが、「バー」などのお酒を前提とした営業形態でこの方法を採ることは現実的ではありません。

転貸人が許可を取得し、業務委託として契約する

「知人(転貸人)が深夜営業の届出を行い、実際の経営は自分が業務委託として担う」という構成を考える方がいますが、これも認められません。

深夜酒類提供飲食店の届出は、実際に経営して責任を負う者が行う必要があります。

法令では名義貸しが厳しく禁止されており、届出人が実態として経営の主導権を握っていなければ、名義貸し(違法行為)とみなされるリスクが高くなります。

不正な方法で申請する

「使用承諾書を偽造する」「不備があることを知りながら提出する」といった方法は、仮に届出が受理されたとしても問題が解決したわけではありません。

これは単に、警察を故意に誤認させることによって不正に手続きを通過させたに過ぎません。

後日、使用権原の問題が発覚した場合には処罰を免れることはできません。「書類の審査を通過したのだから合法だ」「警察の確認ミスだ」という主張は通りません。届出を受け付けた警察側に責任はなく、虚偽申請を行った側が全面的に責任を負うことになります。

まとめ

状況対処法
所有者が深夜営業を許可しない交渉する。難しければ別物件を検討する
知人から無断転貸で又貸しされている所有者に話をつけ、正規に転貸許可・使用承諾書を取得する
主食を置けば届出不要になるか?「主食中心の実態」がなければ認められない。バー形態では不可
業務委託で実質経営する構成は?名義貸し禁止に抵触するリスクが存在
不正申請申請が通っても違法状態は解消されない。後日、処罰の対象となる

建物使用承諾書が取得できない背景には、物件の使用権原をめぐる問題が潜んでいるケースがほとんどです。回り道に見えても、所有者から正規に承諾を得ることが、最終的に最も安全で確実な方法です。

物件を契約する前の段階でご相談いただければ、こうした問題を未然に防ぐことができます。

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