バー開業の実務相談でよくある場面

「前のテナントがバーをやっていて、その設備でちゃんと届出が通ったと聞いています。だから今回もそのまま使えるはずです。」

居抜き物件での深夜酒類提供飲食店の開業相談では、こうした声をよくいただきます。物件オーナーや仲介業者から「前の店で届出が通った実績がある」と説明を受け、費用と手間がかかる図面の引き直しや設備変更に納得できない、という気持ちは理解できます。

ただ、「前の店で通った」という事実は、現在の設備が合法であることの証明にはなりません。その理由を、実務上よく見られる3つのパターンに分けて説明します。

なぜ「前の店で通った」が根拠にならないのか

①届出後に無断で改装されていた可能性

深夜酒類提供飲食店の届出は、届出時点の図面と設備内容をもとに受理されます。届出後であっても、客室の数・位置・面積などの主要な変更に際しては変更届が必要となります。しかし実際には、変更届を提出せずに改装が行われるケースが少なくありません。

つまり、届出が通った時点の状態と、現在あなたが内見している物件の状態は、必ずしも一致しないのです。「届出が通った設備」が実際にはその後改変されており、現状は届出内容と異なる、というケースは少なくありません。

②申請時にたまたま見逃されていた可能性

届出制度では、警察署の担当者が提出書類を確認しますが、現地検査をするとは限りません。書類上の問題がなければ受理されることもあります。

結果として、本来は構造設備の要件を満たしていなかったとしても、届出が受理されてしまうケースがあります。「届出が通った」という事実は、あくまで「書類が受理された」ことを意味するにすぎず、「設備が適法であると確認された」ことを意味しません。違法な状態のまま営業が続いていた、というケースも実務では見聞きします。

③法令・運用基準が変わっていた可能性

深夜酒類提供飲食店の構造設備に関する基準は、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営法)および各都道府県の公安委員会規則に基づいています。これらの基準や行政の運用方針は、改正や通達によって変わることがあります。

数年前に届出が通った設備が、現在の基準でも問題ないとは限りません。前の店が届出を取得した時期と現在では、審査のチェック項目や厳格さが異なっているケースもあります。

深夜酒類提供飲食店で問題になりやすい構造設備

これらは深夜酒類提供飲食店の構造要件として定められているものです。実務上、居抜き物件の届出手続きで問題になりやすい設備・構造を挙げます。

  1. 調光スイッチ(スライダックス):大阪府の警察署では、客室の照明を調節できる調光スイッチの設置は原則禁止とされています。「雰囲気づくり」のために前の店が設置していた調光スイッチが、届出の障害になるケースがあります。
  2. 高さおおむね1メートル以上の間仕切りや構造物:客室内に見通しを妨げる高さの間仕切り、棚、ボックス席の仕切りなどは、構造設備の要件に抵触するとされています。居抜き物件に残置されたままの造作が問題になることがあります。
  3. カウンターの高さ:1メートル以上の高さがあり、かつ客室の見通しを妨げる場合は、認められない場合があります。
  4. 照明の明るさ:客室の照度についても基準があります。前の店が設定していた照明では基準を下回るケースがあります。
  5. 音響・騒音対策設備:防音設備の有無や状態も、物件によっては確認が必要です。

これらの設備・構造は、内見時に見た目で分かりにくいものも多く、専門的な観点からの現地確認が必要です。

居抜きでも図面の引き直しと現地確認が必要な理由

行政書士が届出書類を作成・提出するにあたり、現状を正確に反映しない図面や虚偽の内容が含まれる資料を提出することはできません。これは行政書士法上の義務であり、実務上の倫理でもあります。

「前の店で使った図面をそのまま流用する」という方法は、その図面が現状と合致している場合を除き、使用できません。たとえ前の図面が存在していても、現地確認なしに「同じはず」という前提で申請書類を作成することは、不正確な書類の提出につながりかねないのです。

また、仮に不備のある書類で届出が通ってしまったとしても、その後の立入検査や行政指導の際に問題が発覚するリスクは残ります。届出後のトラブルを防ぐためにも、現状に即した正確な書類を作成することが、開業後の安定した営業につながります。

居抜き物件であっても、以下の対応が基本となります。

  • 現地の実測と現況確認:図面と現状が一致しているかの確認
  • 設備の現況調査:調光スイッチ・間仕切り・照明設備の状態チェック
  • 現況に基づく図面の作成・修正:必要に応じた引き直し

まとめ

「前の店で通った」という事実は、現在の設備が深夜酒類提供飲食店の構造設備要件を満たしているという証明にはなりません。届出後の改装・申請時の見逃し・基準の変化という3つの理由から、前の実績はそのまま今回に引き継げるものではないのです。

居抜き物件での開業には、費用と手間を惜しまず現況確認と正確な書類作成を行うことが、後のトラブルを防ぐ最善策です。

居抜き物件での深夜営業届出全般については、下記記事もご参照ください。

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